ブータンで内視鏡医として活躍された阪口昭医師の奮闘記です。第6回はいよいよ胃の内視鏡検査についてです。
6)胃内視鏡
最初の日、今日の件数は約20件と言われたので、誰か他に先生が来て、二人でやるのだろうと思った。しかし、誰も来ず、結局一人でやるということに途中で気がついた。それからは、一日症例は平均15~25例、間に吐血や下血の緊急例や、静脈瘤治療例が入った。日本での経験の軽く倍以上の症例数であった。
初期の頃は、患者さんにとっても、私にとっても、意思疎通の困難な内視鏡検査であった。頼りは、看護師のサポートであり、患者さんのおおらかな心であった。50歳位までの人は英語を普通にしゃべるが、それ以上の年齢の人はゾンカ語(ブータンの国語)でないと通じない。
最初に覚えたゾンカはケマタン「飲み込んで下さい」と、ケママタン「飲み込まないで下さい」。必要が最大のモチベーション。
私が研修医の頃と同じで、胃内視鏡は鎮静はしないというのが今のブータン流。10歳の子供も同じであった。さすがに15歳の食道静脈瘤の治療の時はまず看護師を説得してから鎮静をかけた。
消泡剤・鎮痙剤も使用しないので、胃の中にはたくさんの泡や粘液が付着する。咽頭麻酔薬も在庫が切れていることが多く、多くの人は前処置は何もなしで検査を行った。NPO-HIGAN (本法人)のアドバイスで検査前に約200㎖の飲水を試みたが、食道は見やすくなったが、残念なことに胃はあまり変化は見られなかった。2021年に導入された新しい機種には、ウオータージェットという水を噴射して粘液や泡を吹き飛ばす機能がついていたので、これが大変役立った。
ほとんどの症例で、迅速ウレアーゼ試験によるピロリ菌の検査を行った。生検鉗子、ポリープ切除用のスネアー*などは、すべて消毒後再使用される。
治療は食道静脈瘤の結紮が最も多く、胃潰瘍や十二指腸潰瘍の止血、ポリープ切除、食道ステント**留置、胃ろうの造設などであった。
看護師は2名が検査室内にいて、1名は患者さんの背後でマウスピース***や体位の保持を、もう1名は生検や処置時のサポートを行う。内視鏡洗浄室にはもう1名配置される。
2年間の内視鏡室の胃内視鏡実績は約7000例で、私の担当は約4000例だった。(次回に続く)
*スネアー;特殊な輪状のワイヤーでポリープ切除に使用。通常は使い捨て
**ステント;狭くなった管腔部分を広げるために使う器具(通常留置する事が多い)
*** マウスピース;内視鏡を動かしやすくするために被験者に噛んでもらう器具
写真上段左;胃内視鏡検査1 上段中;胃内視鏡検査2 上段右;初めて役にたったデジカメ
写真下段左;新しい内視鏡の勢ぞろい(その5参照)下段中;助っ人で来てくれた陸軍病院の看護師さんのお疲れさん会
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